2025年4月に長崎へ向かった。

稲佐山に沈む夕陽は、まだ白味を帯びていた。高度が高いうちから山の向こうに隠れるので、壮年のうちに戦いに命を失った英雄たちのことを思った。

岸壁近くのレストランの座席に身を沈め、光を失う港の海を見つめていた。長い冬が終わり、空気の緩んだ街には活気が戻って来ていて、店員の女性は、やっと客が戻ってきたんたです、と顔を綻ばせた。馴染みの客、どうやらその客は先生と呼ばれる、品のいい初老の夫妻だったのだが、その店員の女性は、幾度となくその夫妻と会話を交わしていた。私は、なにか、物語のなかに不意に入り込んでしまったようだったので、筋立てを変えないよう、気配を消しながら、岸壁の先に見入っていた。
